恋し、挑みし、闘へ乙女
「奥様はお嬢様の結婚を楽しみにしていらっしゃるのですよ」

しみじみとミミが言う。それに反発するように乙女が訊く。

「どうしてこんな若さで、見ず知らずの男性と見合いをして結婚しなくちゃいけないの?」

何を今さら、というような顔でミミが答える。

「規則で決まっているからです」

そんなことは乙女だとて百も承知だ。

「でも、その規則が作られたのは大昔でしょう? それを今世も引きずっているなんてナンセンスだと思わない?」

百年以上も前、“フリー”という言葉が流行語となった。そして、自由を謳歌する若者たちの間に“結婚”を“拘束”と捉える風潮が広まった。それにより婚姻率が激減して、それに比例するように子供の数が減少した。

十数年後、人口ピラミッドが崩れた“和之国”は、働き手が大幅に減ったことで産業が成り立たず、国家崩壊の危機に立たされた。

これを打破するため、当時の国王が苦肉の策として打ち出したのが『女性は十八歳で見合いをして結婚すること』だった。

「バッカじゃない! 結婚したら絶対に出産できると思っているのかしら?」
「それは……」
「ほら、ご覧なさい。ミミも理不尽だと分かっているじゃない」

勝ち誇ったように乙女がフフンと鼻を鳴らす。

「おまけにお相手は“婚ピューター”が選んだ男性って、いくら万能な婚ピューターが選んだ相手だとしてもよ! 感情のない物が選んだ相手よ、納得がいかないわ」

乙女が憮然と言う。
“婚ピューター”とは“和之国”が作った“お見合い専用結婚コンピューター”のことだ。

「それはそうですが……規則には逆らえません。それが嫌なら例外となる“国許可職”にお就きになったらいかがですか?」

国許可職とは、産婦人科医、小児科医、教師といった子供に携わる職業で、国許可職従事者とそれを目指す学生だけは、唯一、十八歳での見合いも結婚も免除されていた。
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