恋し、挑みし、闘へ乙女
「君の作品には色気が足りない」
「――まぁ! 色気って、厭らしい!」

乙女が眉間に皺を寄せると、綾鷹がプッと吹き出す。

「何を勘違いしているのか知らないが、破廉恥なシーンを増やせと言っているわけではない」

「エッ!」と小さな叫びを上げ、上気する頬を押さえる乙女を見ながら綾鷹がニヤリと笑う。

「君の方こそ何を想像したのやら……厭らしいねぇ」
「うわっ! それ以上言うのは止めて下さい!」
「――そういうところだよ、まだまだネンネだということだ」

クックッと笑いを噛み締め綾鷹が言う。

「君は恋をしたことがないだろう? だから、君の書く物語は夢見る乙女の絵空事。綺麗すぎるんだよ」

乙女がギリッと唇を噛む。悔しいが綾鷹の言う通りだった。

「ゆえに薄っぺらく、恋愛小説なのに色気を感じない、ということだ」

乙女がムスッとしていると、「これはこれは!」と場違いにも聞こえる野太い声が話に割り込む。

「梅大路綾鷹様、珍しいところでお出会いしますなぁ」
「小金澤公爵もお越しでしたか」

小金澤と呼ばれた野太い声の持ち主は、声同様、体もでっぷりとしていた。

「私はこちらのライスカレーが大の好物でしたな。三日と開けず通っております」

だからお腹がそんなに出るんだ、と乙女は妊婦のような腹部に目をやる。
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