恋し、挑みし、闘へ乙女
「それで、こちらのお嬢さんは?」

小金澤の小さな目が厭らしく乙女を見る。
後で綾鷹が言うには、彼は女にとてもだなしない男と評判だそうだ。

綾鷹は小金澤の視線に気付くとチッと小さく舌打ちをした。

「彼女は私の許嫁です」
「なっ、なんと! とうとう見合いをされたのですか!」

小金澤は本当に驚いているようだった。
「私はてっきり険支路様のお嬢様、蘭子嬢と……」とそこまで言ってハッと口を押さえる。

「おや? 言葉半ばで言い止めるとは気持ち悪い。で、蘭子嬢と何ですか?」

笑みは浮かべているが、綾鷹の眼は笑っていない。

「いえ……あの、あっ、そうだった。急ぎの用があり、これにて失礼いたします」

小金澤は逃げ出さんばかりにその場を立ち去った。
その後ろ姿を見ながら、フンと綾鷹が鼻を鳴らす。

「まぁ、いい。これで見合いの話は一気に広まるだろう」
「――あっ、まさか!」

「おや?」と綾鷹が口角を上げる。

「流石、作家ですね。分かりましたか?」
「あの方がいらしているのを知っていて、このお店にされたのですね?」
「ビンゴです。彼は拡声器と異名を持つ男です」

綾鷹曰く、小金澤に秘密を知られたら半日で国中に広まるらしい。

「私を思ってこのお店にされたのではなかったのですね!」
「心外です。貴女を思ってです。でも彼がいることも知っていた」

「一石二鳥ということです」と綾鷹は涼しい顔で答える。
「最低! 何て男!」思わず乙女の口から悪口が突いて出る。
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