恋し、挑みし、闘へ乙女
綾鷹曰。

「私の仕事は陛下の護衛もだが、梅大路次期当主として、異国の者が大勢参加する社交の場に顔を出す役目も担っている。彼らは必ず奥方を伴ってくる。だから君にも異国の言葉を覚える必要があるということだ」

「それは私にも社交の場に顔を出せと仰せなのですか?」
「嗚呼、妻として当然の義務だ」

妻……乙女はここにきて改めて綾鷹に訊ねる。

「――本当に私と結婚するつもりですか?」
「何を今さら、冗談だとでも?」

綾鷹の片眉が上がる。どうやら怒っているようだ。

「諦めの悪いお嬢さんだ。私は一度決めたことは曲げない主義でね」
「そこを今回は……」
「ダメだ!」

一刀両断する綾鷹に乙女は深い溜息を吐く。それを見ながら綾鷹が語気を強め言う。

「君は事の重大さが分かっていない! 今、君はこの国のキーパーソンなのだよ」

はい? 乙女には綾鷹の言っている意味が全く分からない。

「鍵となる人物……私が?」

「嗚呼」と頷いた綾鷹が爆弾を落とす。

「命の危機に遭うかもしれない。おそらく噂が広まれば、確実に君を狙って襲ってくる馬鹿な輩が出てくるだろう」

はぁぁぁ! 何てこと! 乙女はアングリと口を開ける。

「だからだ、君を守るために私は君の側を離れる訳にはいかないのだ」
< 49 / 215 >

この作品をシェア

pagetop