恋し、挑みし、闘へ乙女
「ということは」と乙女は宙を見、パチンと手を打つ。

「花嫁修行は……カモフラージュ!」
「馬鹿か! そんなことで結婚などするか!」

じゃあ、どうして……と訊ねようと口を開きかけたところに、「お待たせいたしましたぁ」と先ほどの女給が料理を運んできた。

テーブルに置かれた料理から、えも言われぬ魅惑の香りが立ち上り乙女の鼻腔をくすぐる。

「どうやら、話は後にした方がいいみたいだな」

瞳を輝かせて料理を見つめる乙女を、綾鷹が柔らかな目で見つめながら言う。

「えっ、何ですか?」
「いや、何でもない。どうぞ召し上がれ」

「はい!」と乙女は元気に返事をしてから、「頂きます」と手を合わせ、早速にスプーンを手に取ると食べ始める。



図られた……。
あまりの美味しさに、ひと時全てを忘れてしまった。

乙女とて腐っても伯爵家。豪邸には慣れていた。だが、どんどん近付いてくる屋敷にアングリと口を開く。

車は広いフロントヤードを過ぎ、大噴水を弧を描くようにゆっくり進み、豪華な彫刻を施された玄関前で停まった。

「どうした? 早く降りろ」

先に車から降りた綾鷹が中を覗き込み乙女の手を引く。
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