恋し、挑みし、闘へ乙女
「我が家は全員コーヒーが好きでね、仕事熱心な紅子さんは梅大路家のためにとカフェーに自主勉強に行ったんだ」

綾鷹が「どうぞ」とソファに座るように乙女を促す。

「そして、店の者の誰よりも旨く淹れられるようになった、という逸話を残したほど美味しいコーヒーを淹れるんだ」

何と素晴らしい! 職業婦人の鑑、と乙女は目を輝かせながらソファに腰を下ろす。

「私、そういうプロ根性、好きです!」
「私も好きだ」

斜め前に座った綾鷹が乙女を見ながら言う。それが妙にくすぐったくて、居た堪れずに乙女は思わず失言する。

「貴方、天然タラシですか!」
「それは私の“好き”に反応したということかな?」

綾鷹の質問に乙女はグッ言葉を詰まらせる。そして、ヤケクソのように言う。

「そうですよ! 何ですか、大人の余裕? ワザとドキドキさせるような言葉とか態度とか……」

「ふーん、ドキドキねぇ」

綾鷹がクッと口角を上げる。

「いいねぇ、これからもっと僕に胸をときめかせておくれ。じゃなきゃ、君の望む、恋愛結婚にならないんだろ?」

ヘッと乙女は間抜け面になる。
そして、「まさか」と言いながら人差し指で自分を指し、訊ねる。

「私と恋愛したいのですか?」

「まさか」と綾鷹が肩を竦める。
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