恋し、挑みし、闘へ乙女
「それにしてもお忙しそうですね」

合掌を終えるとミミは綾鷹が去ったドアを見つめ、「そう言えば」と思い出したように言う。

「噂なのですが、山向こうにある“化け物屋敷”から夜な夜な恐ろしい声が聞こえるとのことです。その件が関与しているのでしょうか?」

「山向こうの屋敷って、月華の君の……」
「やはり乙女様もご存じでしたか」

ミミがウンウン頷く。

「そうです。腹違いの兄と言われていた夜露卿がいらした鏡のお屋敷です」

鏡夜露……その名は二十五年経った今も、悲話の主人公として密かに語り継がれていた。

「確か……当時、夜露卿は八歳……ということは今、三十三歳よね」
「はい。私の生まれる前の事件でしたが、祖母がよく『悲劇の王子の物語』と言って話してくれました」

乙女が聞いたのは兄からだった。

「兄は中学の頃、ご学友たちと“探検”と称して鏡邸に入ったことがあるそうよ」
「萬月様が? まぁ!」

意外だったのかミミが目を見開く。

「萬月様って、そんなにやんちゃな子だったのですか?」
「それはもう! 駒子さんがしょっちゅう追い回していたわ」

その姿を思い浮かべ乙女がクスクス笑い、訊ねる。
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