恋し、挑みし、闘へ乙女
「夜露卿は自室に大量の血痕を残したけど、死体は残さず煙のように消えてしまったと聞いているのだけど、お祖母様は何ておっしゃっていたの?」

ミミがブルッと震える。

「――それはもう悲惨な現状だったようです」

自分の両手で自分を抱き締め、ミミは二の腕を擦りながら話を続ける。

「当時、夜露卿が鏡の養子ということは周知の事実だったそうです。実の親は伏せられていましたが、噂では先の国王、星華の君の隠し子と言われていました」

「その根拠は?」と乙女が訊ねる。

「あのお屋敷近くで星華王の姿が再々目撃されていたようです」

ミミはかなり詳しく祖母から話を聞いていたようだ。

「当時、月華の君は三歳でした。スクスクとお育ちで、外腹だった夜露卿の存在が疎ましくなった何者かが手を掛けたと言われていました」

「私は、その何者かが実の父である星華の君だったと聞いたけど……」
「はい、一部の噂ではそう言われています。ですが……」

「ですがって何?」と乙女は顔にクエスチョンマークを貼り付け訊ねる。

「はい、それが真犯人の狙いだったという噂もあったらしいのです」
「真犯人?」

声を潜めミミが言う。
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