恋し、挑みし、闘へ乙女
「ほっ本当に女タラシですね」

なっ何てことを言うのだ! 綾鷹の真意は定かでないが、乙女の頬がみる間に赤く染まる。それを悟られないように乙女はプイッと顔を逸らす。

「タラシ? フーン、そんな噂があるのかい? 心外だね。こんなに一途な男を掴まえて」

逃げた視線に瞳を合わせるように綾鷹が乙女の顔を覗き込む。

「女人に対してクールだという噂は聞いたことがあるけど……タラシねぇ、それって君の主観が入っているのかな?」

「えっ、そうなの?」と乙女は視線を泳がせ、「そんな噂、知りません。興味もない人のことなどイチイチ気にしていませんもの」と言葉を繕う。

「それは残念だ」と綾鷹は本当にガッカリしたように溜息を吐く。

「私はパーティーで君の姿を見つけるたびに胸を躍らせていたのに」
「えっ? 嘘っ」

「嘘じゃない。でも……」と言いながら綾鷹が顔を近付ける。
綾鷹のアップを目前に、恥ずかしさのあまり乙女はギュッと目を瞑る。

「今の告白で、君も僕を意識せざるを得なくなったよね? ねぇ、分かってる? この状況で目を閉じることがどんな意味を持つか?」

「ヘッ?」と目を開けたと同時に綾鷹がキスをする。

クッと綾鷹の目が笑う。それを目にした途端、乙女の右手が綾鷹の頬に飛ぶ。だが、一瞬早く「おっと」と綾鷹はその手を捕まえ、そのまま乙女を抱き寄せ先程より深く口づける。

その唇が少し離れ、「抵抗しても無駄なこと」と言い、呪文を唱えるように囁く。

「君は必ず私を好きなる」
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