恋し、挑みし、闘へ乙女
「彼女が噂の……」と上ノ条が作り笑いと思しき笑みを浮かべる。

「レディー、お初にお目に掛かります」

乙女の手を取るとその甲に軽く口づけをする。だが、その手をすぐ綾鷹がやんわり取り戻す。

「ほほう、君が女人に対してそんな態度を取るとは」

上ノ条がグーの手で口元を押さえククッと笑みを漏らす。

「いいだろう? 君もそんな女人を早く見つけるんだね」
「見つける? 婚ピューターがだろう?」

綾鷹を見る上ノ条の顔は美しいが、憂いを秘めた冷たさが漂っている。それなのに……と乙女はその瞳の奥にある熱いものにハッとする。まさか本当に綾鷹が好きなのでは……と。

「では、本日はごゆるりとお楽しみ下さい」

胸に手を当て軽くお辞儀をすると上ノ条は、乙女に向かって意味深に微笑み、それから綾鷹にソッと耳打ちする。綾鷹が「分かった、後で」と言い、ポンと上ノ条の肩を叩くと上ノ条はその場を辞する。

「――美しい人ですね」

その背を見送りながら乙女が呟くように言う。

「確かに彼は彼女と言った方がいいほど美しい男だ。それが何か?」

綾鷹の眼がギロリと乙女を睨み言う。

「上ノ条みたいなのがタイプなのか?」
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