恋し、挑みし、闘へ乙女
「どうしてそうなるのですか! 私は単に……」

的外れな言葉に呆れながらも、ボーイズラブの世界を妄想したとは言えない乙女は口ごもる。

「単に何だ!」
「もう! しつこい! 貴方とお似合いだな、と思っただけです!」

苛立たしさに言ってしまうと、「はぁ?」と綾鷹が顔にクエスチョンマークを貼り付けポカンと口を開ける。

綾鷹のそんな間抜け面を見たことのなかった乙女は思わず呆気にとられ、その後、お腹を抱え笑い出す。

「ちょっと見て! 綾鷹様相手に大笑いしているわよ、あの子」
「怖いもの知らず?」
「だから婚ピューターが選んだんじゃない?」

コソコソ話をする声に綾鷹がニヤリと笑う。

「君は実にいい仕事をするね」

「なら」と乙女の腰に綾鷹が手を回す。

「注目の的だし、ついでにダンスでもお披露目しよう」

何という男だ! 呆れ眼の乙女の手を引きホール中央に立つと、綾鷹は軽く紳士のお辞儀をし乙女の腰を抱く。優雅な音楽に合わせ綾鷹と乙女のダンスが始まる。

「で、さっきの話だがどういう意味だ?」

踊りながら綾鷹が訊ねる。

「まんまです。上ノ条様と綾鷹様がお似合いだな、と思ったのです」

もう自棄だ、とばかりに乙女が言うと、『蒼い炎』を調べ、当然ボーイズラブ小説も読んだ綾鷹は顔を顰める。

「気持ち悪いことを言うな! 私は女が……乙女が好きだと言っているだろう!」
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