恋し、挑みし、闘へ乙女
その顔を見ながら、彼はシロだな、と乙女は思うが、上ノ条に対する疑惑は晴れずに残ったままだった。

そんな話が二人の間で交わされていると知らないギャラリーは、美しい二人のダンスに魅了されウットリと魅入っていた。

「綾鷹様、私ちょっと」

しばらく踊っていた乙女がモジモジとしだす。

「――ん? ああ、トイレか?」

「もう、ストレートに言わないで下さい」とプリプリしながら乙女は綾鷹から離れる。その背に「気にするな、生理現象は誰にも止められない」と追い打ちを掛けるように綾鷹が言う。

「本当、デリカシーに欠けた男!」

床を踏み鳴らしながら乙女はレストルームに飛び込む。



「桜小路乙女さんって、貴女?」

乙女が洗面所から出てくると、待ち構えていたように声を掛けられた。
誰? 牡丹のような深紅の紅をさした妖艶な美女だった。

「わたくし、黒棘先蘭子と申します」
「えっ!」
「その顔はご存じのようね。わたくしのこと」

おそらく自分と同じ年ぐらいだろうと乙女は思ったが、威風堂々としたその態度はグンと年上に見えた。

「貴女、梅大路綾鷹様のお見合い相手らしいわね。その指輪も彼からかしら?」

蘭子のキツイ眼が乙女の右手薬指に落ちる。
< 75 / 215 >

この作品をシェア

pagetop