恋し、挑みし、闘へ乙女
「黒棘先様は婚ピューターが信じられないと? 月華の君が信じられないと言うのでしょうか?」

「そっ、それは……」と蘭子が口ごもる。

「とにかく、この子には金輪際関わらないで頂きたい」

鋭い眼差しが蘭子を睨み、その瞳が乙女の顔を覗き込んだ途端、優しくなる。

「乙女、行こうか」

綾鷹の手が、今度はさりげなく乙女の腰に添えられる。
それを目前にした蘭子はギリッと唇を噛む。

「では蘭子さん、僕も失礼します。この後もどうぞお楽しみ下さい」

紳士のお辞儀をした上ノ条も綾鷹たちの後に続く。

「女の勘ですが、蘭子さんって綾鷹様のことが好きですよね」
「好かれている自覚はある」

シレッと答える綾鷹をチラリ見し、乙女は肩越しに後ろを見る。

「凄く睨まれていますよ……私」
「大丈夫だ。私がいる」
「おや、梅大路君」

白い髭を生やした矍鑠(かくしゃく)とした老紳士が綾鷹を呼び止める。

「これは佐竹様、ご無沙汰しております」

足を止めた綾鷹が後ろから来た上ノ条に「悪い、乙女を少し頼む」と目配せする。
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