恋し、挑みし、闘へ乙女
何を大袈裟なと思いつつ、でも、ここは肯定しておくに越したことはないと「そうね」と頷く。

「お嬢様はお美しいので何を着てもお似合いになりますが、ブルー系のお召し物が特にお顔に映えます」

「だから……」と考えていたミミが、「そうだわ!」と一拍手を打つ。

「ゲンゾー作のお着物、あれに致しましょう!」

嬉々としながら「帯は……」とまた考え始める。

三奈階家が成り上がりだとしても、一応、男爵家の令嬢なのに……ミミは根っからのメイド体質だった。

子犬のようにはしゃぎパタパタと走り回るミミを見ながら、まだまだ立派なレディーにはほど遠いわねと自分のことは棚に上げ、乙女はコッソリ溜息を吐く。

「ねぇ、それよりお腹が空いたわ」

時計に目をやったミミが、「まぁ、もうこんな時間ですか!」大変大変と部屋を駆け出し、「すぐにお支度致します」と走り去った。

――忙しない子。

乙女はミミの姿が完全に見えなくなったのを確認してベッドの下からトランクを取り出した。

この中には家出時に持って行く物が入っていた。中身を確認しながら「よし、あとはパソコンを入れたらオーケーね」とほくそ笑む。

明日は水曜日。ミミの休養日だ。幸いにも用事ができたからと、今夜から彼女は実家に戻る。

明日、私は自由の身になる! 乙女は羽根の生えた我が身が鳥のように飛び立つのを妄想してニヤリと笑い――。
< 8 / 215 >

この作品をシェア

pagetop