恋し、挑みし、闘へ乙女
「よし!」と大きく頷くと、トランクをまたベッドの下に戻して机に向かった。
編集長の黄桜吹雪に原稿料の前払いを頼んだら、次回作を前倒しで仕上げたらね、と言われたからだ。
吹雪は一度結婚経験があるものの、“和之国”には珍しい離婚経験者だった。おまけに、女性でありながら完璧な男装の麗人ということで何かと目立っていた。
「そんなだから国家親衛隊に目を付けられるのよ!」
ミミの言葉を思い出すと乙女はチッと舌打ちをする。
吹雪の生き方に赤の他人が文句を言う筋合いはない。乙女だってそれは重々承知している。だが、唯一、乙女の小説を認めてくれた出版社だ。乙女はそれを失いたくないのだ。
「離婚はしょうがないとして、人前だけでも女性の格好をすればいいのに」
――とはいうものの、吹雪の男装は女性だと知っていても心ときめくものがある。
「あれが見られなくなるのは……やっぱりちょっと残念かな」
複雑な思いを抱きながら乙女は猛烈な勢いでキーを叩き、「お嬢様、お食事の用意が整いました」とミミが声を掛けた一時間後には完結していた。
「これでよし」
ニンマリと微笑み、乙女は「はーい、今、行きます」と明るく返事をした。
編集長の黄桜吹雪に原稿料の前払いを頼んだら、次回作を前倒しで仕上げたらね、と言われたからだ。
吹雪は一度結婚経験があるものの、“和之国”には珍しい離婚経験者だった。おまけに、女性でありながら完璧な男装の麗人ということで何かと目立っていた。
「そんなだから国家親衛隊に目を付けられるのよ!」
ミミの言葉を思い出すと乙女はチッと舌打ちをする。
吹雪の生き方に赤の他人が文句を言う筋合いはない。乙女だってそれは重々承知している。だが、唯一、乙女の小説を認めてくれた出版社だ。乙女はそれを失いたくないのだ。
「離婚はしょうがないとして、人前だけでも女性の格好をすればいいのに」
――とはいうものの、吹雪の男装は女性だと知っていても心ときめくものがある。
「あれが見られなくなるのは……やっぱりちょっと残念かな」
複雑な思いを抱きながら乙女は猛烈な勢いでキーを叩き、「お嬢様、お食事の用意が整いました」とミミが声を掛けた一時間後には完結していた。
「これでよし」
ニンマリと微笑み、乙女は「はーい、今、行きます」と明るく返事をした。