恋し、挑みし、闘へ乙女
「ブルー系も宜しいのですが、山吹色もお嬢様の白い肌に映えると思います」

柄もない単色のワンピースだが、細工の施したボタンや上質のレースなど、サンプル品とは思えないほど丁寧な仕上がりだった。

「――これ、もしかしたらマダム・メープルのもの?」
「流石、乙女様、さようです」

「まぁ!」と乙女が目を輝かせる。

「彼女の作品って、滅多に手に入らないのに……どんな手を使ったの?」
「人聞きの悪い。ちゃんと正規のルートを使ってですよ」

ミミがニシャリと笑う。

「実はですね、メイド仲間から教えてもらったのです。マダム・メープルのシークレットサイトを」

上流階級向けのドレスを得意とするデザイナーのマダム・メープルだが、ミミ曰く、「影で、働く女性のためのお洋服も作っておいでなのです」だそうだ。

「高位の方々の手前、大っぴらには宣伝していませんが、そのサイトでサンプル品を格安で分けてくれるのです。その売上金は養護施設の寄付となるそうです」

「へーっ」と乙女は感心する。

「マダム・メープルってお洋服同様、素敵な方のようね」
「本当に。あっ、でも、雑誌のご本人のお写真。あれは当てにならないそうです。影武者だという噂があります」
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