恋し、挑みし、闘へ乙女
「何それ凄くミステリアス」

でも、あの写真だって凄くピンボケだし……と思いながら、一度本人に会ってみたいものだ、と乙女の好奇心がウズウズする。

「お嬢様、いけませんよ。ご興味を持たれ会いに行くなんて行為は!」

先手必勝とばかりにミミが注意する。

そう言えば、以前もこんな会話をしたなぁ、と乙女は“化け物屋敷”のことを思い出す。

まずはそちらからだわ、とほくそ笑み、「しないわよ!」今は、とニッコリ笑む。

「どうだか!」

ミミの生温かな目を受け、「しないったらしない!」と乙女がムキになる。

漫才のような二人のやり取りが続く中、乙女の準備は着実に進み、すっかりレディーに変身した乙女は國光の運転で“有閑マダムのお茶会”会場となる常磐(ときわ)邸に到着した。

『常磐邸は“有閑マダム”の会長であらせられる常磐公爵婦人の別邸です』

紅子の言葉を思い出した乙女は車窓から屋敷を見上げ、「これが別邸?」だったら本邸はどれだけ凄いのだろう、と感嘆の息を吐く。

「いらっしゃいませ」

屋敷のエントランス前に車が横付けされると、常磐邸の者であろう男性がドアを開け深々とお辞儀をする。

「乙女様、ではごゆるりとお楽しみ下さい」

車から降りる乙女に國光がバックミラー越しに微笑む。
どうやら國光も綾鷹に『乙女を宜しく』と頼まれた一人らしい。

「私は控えの間に待機しております。何かございましたら携帯にご連絡下さい。すぐに馳せ参じます」

全くどれだけ心配されているのだ、と乙女は苦笑いを浮かべながら「ありがとうございます」と礼を述べて車を降りる。
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