それは、愛だった。

優しい記憶

　夏のピークが終わり、秋に近づきつつある九月の中旬。わたし、牧尾　律(まきお　りつ)は、受験の真っただ中に親の離婚が言い渡された。地元の高校に行こうとしていたわたしだが、その状況なら仕方ない。父親に引き取られる事が決まった身で選べる事もなく、父親との引っ越し先の近くにある高校に行くことに決まった。友達に話したら、唐突すぎない？と言われた。仕方ないだろう、怒りたいのも驚きたいのも全部わたしだ。

「高校受験、こんな時に悪いんだけどがんばれよ！」

　お父さんのよくわからない激励を受けて、受験に挑み、やる気のないまま合格。本当はこのまま平凡な人生を歩むはずだった。なにもない、どうしようもないわたしに、大切な何かを与えてくれた人が居た。だから、少し思い出してみようと思う。たった三年間の、小さなわたしと「あの人」との優しい記憶を。







【それは、愛だった。】