つちかぶりひめ
「ねぇ、何やってるの」
いきなり声をかけられてびっくりしたさくは、慌てて振り返る。
そこには、艶やかな黒髪を携えた青年がこちらをジッと見つめていた。
「あ、えー…少しお散歩を」
「そう」
突然の声に驚きが隠せず、片手におにぎりを掴んだまま答える。暑いからと傘も外して隣に置いてしまっているため、さくの顔は堂々と日に晒されていた。そのことに気付き、慌てて被ろうとするも、片手にあるおにぎりと、膝の上の包みが邪魔ですぐには動けない。
慌てておにぎりをしまい、包みなおしていく中、青年が年頃の娘が1人で出歩いていることをさして不思議に思わない様子であることに気付いた。
もしかしたら、貴族の姫だと思われていないのかもしれない。平民の娘だと思われているのであれば、1人で歩いていてもそこまで怪しまれないだろう。
その考えに至ったさくは、平民らしく振る舞って、堂々と牛車の横を通って帰ろうと荷物をまとめる。しかし、着物の袖を青年に掴まれてしまった。
「さすがにその着物で牛車の横を通るのは貴族だと分かるから怪しまれると思うよ」
「えっ!?分かってたの!?」
分かってたのなら何故不思議がらなかったのか…疑問に思いながら元の位置に腰掛けると、青年はいたずらが成功したようにクスクスと笑った。
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