つちかぶりひめ
「ここで会ったのも何かの縁だし、名前を聞いてもいいかな?」
「さ……あ、えっと、若葉の姫です」
「若葉の…」
つい本名を名乗りそうになって、ぐっと堪える。貴族の姫らしく、父の名を用いた名前を慌てて言い直した。
「あなたのお名前は??」
「私はとおや。十に夜って書いて、十夜」
「十夜の君って呼んだ方がいいのかしら?」
「十夜でいいよ、若葉の姫。今日はもう時間がないし…またどこかで会った時はゆっくり話そう」
地面に置いておいた傘をさくに被せ、十夜はそこを後にする。
颯爽と去っていったその後ろ姿に、さくは被せられた傘をさらに深く被った。
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