つちかぶりひめ
「またさく姫様はおうちを抜け出して!」
家に帰れば鬼のような形相をした鈴が仁王立ちして待ち構えていた。
脱走して最初の頃は心配して探し回っていた鈴も、慣れた今は、姫を叱るという侍女だとは思えないような態度をとる。
「あ、うん、ごめんなさい」
いつも通り悪びれもなく謝るさくだったが、今日はいつも以上に上の空な様子である。
その様子を疑問に思った鈴は、さくの髪を整えながら問いかけると、不思議な殿方に会ったのだと嬉しそうに話を続けた。
「私他の貴族の人に会ったのは初めてだったのだけれど、他の殿方もみんなあんな感じなのかしら?」
「…そうだといいですね」
初めて会った人ともあって、さくの興味はその殿方に向けられている。鈴が実際会ったわけではないためどんな人なのかは分からないが、少なくとも話を聞く限り高位貴族でありながらも、器の大きい人柄なのだろうと想像できる。
だからこそ鈴は、これから別の貴族へと嫁ぐであろうさくを思うと、この出会いがさくにとって後悔するような出会いでなければ良いと強く願った。
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