つちかぶりひめ



「若葉の姫」


噂が流れ始め、外に出なくなってから数日。
心にモヤモヤを抱えながら床についていたさくは、聞き覚えのある声にふと目を覚ます。



「十夜様…?」


普段なら許可なく部屋に上がってくる十夜であるのに、声がするのみで一向にこちらに来る気配がない。

心配になって襖を開けようと手をかけた時、十夜から制止の声をかけられた。



「噂は、本当か?」


怒気を含んだ声に、さくは何故だか答えられず涙が止まらなくなる。


さくの鼻をすする音が届いた十夜は、その態度こそが答えなのだと理解した。



「これから暫くここへは来ない。だから、襖を簡単に開けることはしないで」



襖越しにそう伝えると、十夜は夜の闇へと溶け込む。

離れる足音にさくが慌てて襖を開けるも、そこにはもう十夜の姿はなく、さくは込み上げて来る感情に身を任せ、はらはらと袖を濡らした。




.
< 40 / 63 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop