つちかぶりひめ
「若葉の姫」
噂が流れ始め、外に出なくなってから数日。
心にモヤモヤを抱えながら床についていたさくは、聞き覚えのある声にふと目を覚ます。
「十夜様…?」
普段なら許可なく部屋に上がってくる十夜であるのに、声がするのみで一向にこちらに来る気配がない。
心配になって襖を開けようと手をかけた時、十夜から制止の声をかけられた。
「噂は、本当か?」
怒気を含んだ声に、さくは何故だか答えられず涙が止まらなくなる。
さくの鼻をすする音が届いた十夜は、その態度こそが答えなのだと理解した。
「これから暫くここへは来ない。だから、襖を簡単に開けることはしないで」
襖越しにそう伝えると、十夜は夜の闇へと溶け込む。
離れる足音にさくが慌てて襖を開けるも、そこにはもう十夜の姿はなく、さくは込み上げて来る感情に身を任せ、はらはらと袖を濡らした。
.