つちかぶりひめ
十夜が来なくなって3回の朔の夜を迎えた頃、若葉の姫が襲われたという事件は人々の記憶から薄れつつあった。
若葉の仕事周りも大分落ち着きを取り戻し、一見今まで通りに戻ったようにも思えていたが、さくだけは未だ元気のないままであった。
「さく姫様、大丈夫ですよ。噂も落ち着いてきましたし、姫様の評判も回復しますよ」
「うん、そうね」
毎日さくに励ましの言葉をかける鈴だったが、その言葉はさくの心にはあまり響かなかった。
さく自身、父である若葉への影響が薄れた今、自身の評判などどうでもよかった。
反芻されるのは、「ここへは来ない」と言った十夜の言葉。
突き放されたその言葉は、未だにさくの心の中へと留まっていた。
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