つちかぶりひめ
「若葉の姫、顔を上げて」
静まり返る部屋で凛と響いた声に、さくは顔を上げる。
「若葉の姫は、皇子である私が怖い?」
そう問われ、さくは今までの十夜との思い出を振り返る。
村人の手伝いをしたり、他愛もないことを話したり、一緒にいて楽しい初めての貴族の友達。
けれども、その彼は実は皇子様であり、これからこの国を導いていく先導者。
そんな高貴な存在に対して、没落貴族であるさくが気楽に友達だと言うのは愚か、話をするだけでも立場はほど遠く、失態を犯してしまえば一瞬で若葉共々消されてしまうのだ。
「…………分かりません」
「そう…」
さくの胸中に沢山の思いが渦巻く中、そう一言呟いた十夜はそれ以上何も発することなく、さくの部屋を後にした。
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