俺様社長に甘く奪われました
プロローグ
「今、なんて言ったの……?」
「悪いけど、莉々子(りりこ)のことは最初からそれほど好きでもなかったんだ。だから別れよう」
聞き返した莉々子に慈悲のない言葉が浴びせられた。
軽い口調の割に衝撃的な内容というギャップのせいか、すぐに理解ができない。
(……好きじゃなかった? 私を……?)
「嘘、でしょう?」
聞き返さずにはいられなかった。最初から好きじゃなかったなんて、悪い冗談としか思えない。そうじゃなかったら、これは良くない夢だ。
けれど隣に座る彼は決してジョークを言っている顔でもなければ、莉々子が夢を見ているわけでもなかった。前を向いたまま一点を見つめた彼の目には、これまで彼女に向けていた優しい眼差しは微塵もない。莉々子が欲しい『嘘だ』という言葉と笑顔の代わりに、彼の口から重く長いため息が漏れる。本心だと言っているも同然だった。
ようやく事態の深刻さに気づき、唇が震えだす。鼓動は速まり、焦点も合わない。
(……一年半も付き合ってきたのに? どうしてそんな言葉が出てくるの?)
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