俺様社長に甘く奪われました
「な、なにもないです」
莉々子が頼りなく否定すると、志乃は莉々子に聞こえるか聞こえないかというくらいの小ささで息を吐いた。
「そう。なにかあったら話してね」
志乃が柔らかく微笑んで再び仕事へ戻ったところで、莉々子は引き出しからハンドクリームを取り出す。それは昨夜、望月からお土産だと渡されたクリームだ。彼の言っていたように匂いは薬っぽいが、今までになくしっとりと潤う。さすがは中国四千年の歴史が生んだ漢方だと唸ってしまった。
「それ、なに?」
匂いで気づいたのか、志乃が興味津々に莉々子の手元を見てからハンドクリームに手を伸ばした。
「……中国製?」
パッケージの中国語を見た志乃がポツリと呟く。
「そうみたいです」
「匂いがすごいわね」
「でも、かなりしっとりするんですよ」