俺様社長に甘く奪われました
「莉々子さん、ちょっとお願いできますか?」
「うん、どうかしたの?」
「俺、今から木村部長を追って地下に行かなきゃならなくて」
松永が人差し指を下に向ける仕草をする。
「そっちが終わり次第、すぐに向かいますから、先に話だけでも聞いてきてもらえませんか?」
「どこに行ったらいいの?」
「秘書室なんですけど、なんでも社長室で異臭がするそうで」
(社長室……)
莉々子は一瞬ためらったが、仕事を選り好みするのはよくないことだと思い直す。
「なんせ秘書室からの依頼なので、対応が遅れるといけないので」
「そうだよね、わかった」
まだ電話中の志乃にメモ書きで『社長室へ行ってきます』と伝え、早速総務部をあとにした。
エレベーターに乗り込み、目指すは役員室のある二十階、このビルの最上階だ。
(それにしても異臭ってなんだろう)
現場のことはまったくの素人のため、莉々子には見当もつかない。行ったところで、本当に話を聞くだけで終わってしまいそうだ。