俺様社長に甘く奪われました
『自分は東条源之助の隠し子だ。順風満帆に生きてきたわけじゃない』
莉々子は以前、望月がポツリと言った言葉を思い返していた。
「驚きますよね? まさかあの社長が隠し子なんて」
どこか面白がるように言う松永のポケットでスマホが着信音を響かせる。
「おっと、里穂からだ。それじゃ、莉々子さん、また明日」
「あ、うん……」
スマホを耳にあてながら、松永は疾風のごとく去っていった。
その後ろ姿をぼんやりと見送りながら、莉々子もゆっくりと足を踏み出す。
(望月社長が東条社長の隠し子……。もしもその話が本当なのだとしたら、私、社長にものすごくひどい言葉ばかりを浴びせちゃったよね。好きなように生きてきたくせになんて。しかも元彼に振られた仕返しのように、人格を否定するような言葉も放った記憶がある。社長とは全然関係がないのに。彼なりの苦労があったかもしれないのに……)
隠し子じゃなかったら言っていい言葉というわけでは決してない。ただ、それを莉々子が言ったときに望月がどれほど傷ついただろうかと想像すると、胸が苦しくなった。