俺様社長に甘く奪われました
朝ソリのビルを出たところで莉々子は足を止める。
(……社長に謝らなきゃ)
一度口から出た言葉は取り消せない。だが、このままにもしておけない。
踵を返し、莉々子は出てきたばかりのエントランスをもう一度くぐる。エレベーターに乗り込み、役員室のある二十階を目指した。
(とにかく社長にひと言謝らなきゃ)
ところがそのフロアにエレベーターで到着したところで、秘書の上田に「なにか御用でしょうか?」と呼び止められてしまった。総務部の人間が用もなく出入りする場所ではないだけに動揺を隠せない。上田からしてみたら、不法侵入と言ってもいいくらいだろう。
「あ、いえ、その……」
なんと言ったらいいのか口ごもる莉々子に上田の冷ややかな目が突き刺さる。
「……じ、実は以前、社長室の蛍光灯を変えたときにちょっとした不具合があったものですから、その調子はどうかと思いまして……」
嘘だけに莉々子の目が泳いでしまう。
上田は、美しく整えた眉をピクリと動かした。