俺様社長に甘く奪われました

 莉々子が給湯室へ向かうと、シンクに志乃が持ってきたコーヒーカップが置かれていた。スポンジを泡立て、カップを持つ。そうして淵をぐるっとスポンジで洗ったときだった。陶器がこすれる音と妙な違和感を手に覚える。親指と人差し指の間に強烈な痛みを感じた次の瞬間、真っ白な泡が赤く染まっていく。


「……っ!」


 驚いて手から滑り落ちたコーヒーカップが、シンクの中でパリンと大きな音を立てて割れる。莉々子の手からは鮮血がポタポタと滴り落ちた。

 大きな音を聞きつけた社員が数名「大丈夫か?」と集まってくる中、「莉々子!」というひときわ大きな声が莉々子の耳に届いた。


「おい、大丈夫か!?」


 奏多だったのだ。その後ろから秘書の上田が顔を覗かせ、その惨状を見て顔をしかめた。


「……社長、どうしてこんなところに」
「そんなことよりどうしたんだ」


 奏多が莉々子の手を水でざっと流し、傷口にハンカチを当てて高く持ち上げる。

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