俺様社長に甘く奪われました
「ダメだ。このまま直行するぞ」
「でも、まだ仕事が残っているんじゃ……?」
「今日はもう終わりだ。とにかく俺の言うとおりにすること。ひとりじゃ心配だ」
ハイヤーの行き先を握っているのは奏多。有無を言わさず、莉々子は彼のマンションへと連れ去られた。
マンションへ着くと、奏多はすぐにどこかへ電話を掛け始める。
下ろされたソファから、莉々子は窓辺に立つ彼の背中を眺めた。
片手をポケットに入れ、電話をする後ろ姿を見るだけで、莉々子はわけもなくドキッとしてしまう。着やせするタイプなのか細身に見えるその身体が、実は鍛え上げられていることを知ったせいで、莉々子はひとり密かに胸を高鳴らせた。
「……いや、開会の辞は発注者がいいだろう。アビーの取締役に依頼するように。……ああ、そうだな。……わかった。それでいこう」
やはりまだ仕事が途中だったのかもしれない。ただでさえ多忙な社長職なのに、来週末には新千葉物流センターの落成式も控えているのだ。そんな彼を自分の不注意でこうして拘束してしまい、莉々子は申し訳ない気持ちになる。今の電話も、アビーという食品メーカーの社名や開会の辞といった言葉が出たということは、落成式関係のことに違いない。