俺様社長に甘く奪われました
奏多はそのあとも別の電話を何本か掛け続けた。
ふと莉々子のバッグの中でスマホが着信を知らせて鳴り始める。取り出してみれば、それは志乃からの電話だった。
「莉々子です。志乃さん、仕事を放り出してしまってすみませんでした」
志乃がしゃべりだすより早く謝る。片づけは別の部署の人のお世話になってしまった。コーヒーカップくらい満足に洗えないとは、莉々子は自分が情けない。
『ううん、仕事はいいのよ。木村部長からだいたいのことは聞いたけど、大丈夫なの?』
実は奏多が、病院から木村へ怪我の状態を前もって報告してくれていたのだ。
志乃は本当に心配でたまらないと言った様子だった。
「足は軽い捻挫ですし、手も大した傷じゃありませんから大丈夫です」
『それで今は? ……もしかして社長とまだ病院?』
「あ、いえ、その……実は社長のマンションにいます。ひとりじゃ心配だからって」
言おうかどうか迷ったが、もしもアパートにひとりでいると嘘を吐いて、心配した志乃が駆けつけたりしたら大変だ。また、木村から、社長が付き添ってくれたことは聞いているだろうから、変に嘘を吐かないほうがいい。