俺様社長に甘く奪われました
奏多の顔がゆっくりと近づき、瞼をそっと閉じたところで、「あら? 帰ってたの?」というかわいらしい声が聞こえたものだから、莉々子は瞬間的に頭がパニックになる。咄嗟に彼から離れ、体勢を整えた。
(……誰? まさかほかに恋人がいたの……?)
莉々子の胸の奥に痛みが走る。
(でもちょっと待って。あれ? どこかで会ったことがあるような気がする……)
それは、長い髪を片方の肩の上で緩くまとめ、色白で目鼻立ちの美しい上品な人だった。
「奏多の晩ご飯を作ってきたのよ」
そう言って、彼女が大きな袋を持ち上げる。
「そちらの方は……もしかして、この前の……?」
彼女の顔がパッと華やぐ。
(思い出した! 彼のお母様だ……!)
「あ、あの、こ、こんにちは。倉木莉々子です。その節は大変失礼なことを……申し訳ありませんでした」
「なんで莉々子が謝るんだよ」
隣で奏多が憮然とする。