俺様社長に甘く奪われました
そうして数十分後、奏多に連れられて莉々子がやってきたのは、とある埠頭だった。車から降りた途端、潮の香りが鼻をかすめる。
(ここでいったいなにをするんだろう)
車中でも思わせぶりに「内緒だ」と人差し指を立て、妖しく微笑むばかりだった奏多に手を引かれ、莉々子たちは埠頭を歩き始める。目の前にはライトアップされた白い客船が停泊していた。
そこへ足が向かっているのは気のせいなのか。莉々子が奏多の横顔を見つめているうちに、それが気のせいではないことがわかった。奏多は客船ターミナルにある受付カウンターに立ち寄ったのだ。
「いらっしゃいませ、望月様でございますね。お待ちしておりました」
黒いスーツに身を包んだ女性スタッフが恭しく頭を下げる。莉々子たちは、その彼女に案内されて桟橋を通って乗船。高級ホテルを思わせる船内はふかふかの絨毯が敷かれ、非日常的な雰囲気に包まれていた。
「あの、奏多さん、どういうことなんでしょうか……?」
状況を飲み込めず、爪先立ちで歩きながら莉々子が奏多にこっそり耳打ちをする。