俺様社長に甘く奪われました
信じられない思いでいっぱいだった。この一年半はなんだったのだろう。ふたりで一緒に過ごした時間が、気持ちの伴わない中身のないものだったなんて。
そこはふたりでよく来たバーだった。歳を重ねて昔を振り返ったときに、『ふたりでよく通いつめたね』なんて思い出話に花を咲かせられるような場所のはずだった。
「……いきなり、どうして?」
唇だけでなく声まで震える。
「ずっと好きじゃなかった。それだけのことだよ」
大切なその場所で、そこまで残酷な言葉を聞くことになるとは思いもしなかった。
胸の奥から怒りにも似た悲しみがせり上がる。それを制御することができず、気づいたときには莉々子の頬を涙が伝っていた。
バッグを掴み、逃げるように店を出る。
こんなときに限って雨が降り始めていた。なんて惨めなのだろう。かといって、それを気にする余裕もない。雨に濡れることも厭わずおぼつかない足取りで歩く莉々子の頭の中は、霧雨のように白く霞んでいた。
ふと行く手を阻むように目の前に人が立ちはだかる。
「キミ、大丈夫?」