俺様社長に甘く奪われました

 キャンセルに身に覚えはないが、そのことで言い合いを続けている時間はない。一刻を争うのだ。


『今日これからお使いになるんですか?』
「そうなんです」


 なんなら自分で受け取りに行ってもいい。とにかくなんとかしたいと莉々子が必死になる。


『……大変申し訳ございませんが、今すぐの手配はちょっと難しいですね』
「そこをなんとかお願いします!」


 相手に見えもしないのにスマホを耳にあてたまま莉々子が頭を下げる。
 ところが返されたのは、『お力になれずに申し訳ありません』という莉々子にとっては酷なワンフレーズだった。

 その業者との電話を切り、ネットで検索して別の業者に手当たり次第電話を入れる。無理を承知で「お願いします」と莉々子は何度も頼み込んだ。
 でも結果は最初の業者と同じ。どこも、今日の今日では手配ができないという答えだった。

 どうして昨日までに一度確認の電話を入れなかったのだろう。備品がきちんと届いているかチェックしていれば、こんな事態を防げたはずなのにと莉々子を後悔が襲った。

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