俺様社長に甘く奪われました
それに彼女がうなずくと、祥真は瞼を閉じ細く長く息を吐く。
「たとえあなたが莉々子の現在の恋人だとしても、これは私たちの問題です」
「いえ、莉々子を手離したあなたが、今頃になって口を開くべきではない。一度口を閉ざしたのなら、そのままつぐむべきだと私は考えますが」
睨み合うふたりの間にただならぬ空気が漂い、莉々子にも緊張が走る。
ただ、どうしたらいいのか、莉々子にはわからなかった。
「ひとりの女性すら幸せにできない相沢社長が、一時の感情で莉々子を幸せにできるとお思いですか? 戸惑わせるだけです」
祥真が自分の左手に目を落とす。そこにはプラチナのリングが光り輝いていた。
祥真は、れっきとした妻帯者なのだ。莉々子と別れて半年後に結婚した妻がいる。
「……あなたの言うとおりかもしれませんね。一度手離したものは、どうあがいても戻らない。莉々子が今幸せなら、それで十分です。莉々子、話せてよかったよ。ありがとう」
「祥真……」
彼はカウンターに千円札を三枚置くと、最後にどこか頼りなく見える笑顔を口の端に浮かべてアストロの扉から出ていった。