俺様社長に甘く奪われました

 それを見送っていると、振り返った奏多が莉々子を刺すような眼差しで見下ろす。不機嫌なことを隠すつもりはないようだった。


「……どうして私がここにいることがわかったんですか?」
「沢田さんから連絡をもらった」
「真紀から?」


 まさか彼女から奏多に繋がるとは思いもしなかった。


「あの、奏多さん――」
「行くぞ」


 手を引き、奏多が莉々子を店から連れ出す。すぐ前にハザードランプを点滅させて停車していた奏多の車に莉々子を乗せ、車を発進させた。

 たとえようのない重い空気が車内を包み込む。奏多とふたりでいて、これほどまでに息苦しいのは初めてだった。奏多は終始無言。その横顔は話し掛けようとする莉々子を拒絶しているようにも見えて、開こうとした口をすぐに閉ざす。そうして居心地の悪い中、到着したのは奏多のマンションだった。


「入って」


 ひと言だけ発し、奏多が莉々子を部屋へと通す。玄関のセンサーライトが点灯するより早く、莉々子は彼の腕に抱き込まれていた。

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