俺様社長に甘く奪われました
「奏多さん、ひどい。だから弾けないって言ったのに……」
「……ごめん」
口元を無理やり引き締め、奏多がいたずらな目を莉々子に向ける。
「猫ふんじゃったはこう弾くんだ」
奏多の指が鍵盤の上を華麗に舞う。最初は莉々子の知っている猫ふんじゃっただったはずが、いつの間にか音に厚みが増し、荘厳な曲へと変化していく。猫ふんじゃったをベースにした違う楽曲になっていった。最後にポロンと高音を指で弾き、演奏が終わる。
「奏多さん、すごい……」
莉々子はそんな言葉しか出なかった。
「ただの猫ふんじゃっただ」
「ただのじゃありません。ものすごくスケールのある猫ふんじゃったでした。こんなの聴いたことがないです」
「当然だ。今初めて弾いたんだから」
即興でそんなことができるとは奏多は天才なんじゃないかと、莉々子は信じられない思いでいっぱいだ。京介がラウンジの演奏を奏多に依頼する理由がよくわかった。