俺様社長に甘く奪われました

◇◇◇

　重い身体を引きずるように出勤すると、志乃から「具合でも悪いの？」と心配されてしまった。
　その目を見て込み上げた涙をなんとか堪え、莉々子は首を横に振る。しかし、どうしてもひとりで抱えていることはできなかった。


「社長と……」


　そこまで言って続かなくなった莉々子の顔を志乃が覗き込み、「……もしかして社長となにかあったの？」と、周囲を気にしながら声を抑える。

　核心を突いた質問に息を深く吐き出しながら「振られちゃいました」と声を落とした。


「……そう」


　志乃まで黙り込む。いつも明るい総務部の空気が、莉々子ひとりのせいで重くなったようだった。


「でもほら、もともと住む世界は違ったんだし仕方ないわよ。莉々ちゃんには、もっと相応しい人が現れるわ」


　莉々子を元気づけようとして、志乃が明るく笑い飛ばす。

　しかし莉々子はその声援になにも返せなかった。