俺様社長に甘く奪われました

 ただ、祥真に心が揺れたわけではない。手痛い失恋に優しさが染みたからだ。


「本当に大丈夫だから。祥真は家に帰って」
「そうはいかないよ。莉々子を送ってく」
「ダメだって。本当に平気なの」


 自宅で待つ人がいる祥真を引き留めるわけにはいかない。


「この前は引き下がったけど、今夜は絶対に譲らない」
「でも本当に――」
「いいって言ってるだろう。変な気を起こそうってわけじゃないから心配するな」


 祥真に深読みされて勢いが弱まる。そこを心配したのは確かだ。再会した夜に、過去に惑わされて祥真が『もう一度』と口走ったことを思い出したせいにほかならない。


「とにかく点滴が終わるまでおとなしく寝ること」


 真顔でそう言われ、従うほかになかった。
 そうして三十分後、点滴の終わった莉々子は祥真の車に乗せられアパートへ送り届けられた。


「毎食抜かずに食べて、毎晩きちんと寝るんだぞ」
「点滴してもらって、かえって元気になったから心配しないで」
「ばーか。心配するよ」


 小さくガッツポーズをすると、祥真が莉々子の頭をコツンと小突く。


「いいから言うことを聞いてくれ」


 しつこいほどに何度も念を押す祥真に莉々子はうなずいた。

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