俺様社長に甘く奪われました

◇◇◇

 その夜、莉々子は以前もらったカードキーを返すために、奏多のマンションへと来ていた。ところがいざエントランスホールにあるオートロックの前に立つと、部屋番号を押すことを躊躇う。

(わざわざ手渡しするのは嫌がられるかな。私の顔はできれば見たくないかもしれない……)

 そんなことを考えているうちにどんどん怖気づいていく。奏多の困った顔は予想がつき、じりじりと後ずさる。

(あとで郵送することにしようかな。……うん、そうしよう)

 そう決意して踵を返したところで、思わぬ人に出くわしてしまった。


「あら、莉々子さんじゃないの。どうしたの? 奏多のところに来たんでしょう?」


 百合だったのだ。
 莉々子がカードキーを握り締めていることに気づき、彼女が不思議そうにする。


「あ、いえ……」


 百合は奏多から、ふたりのことを聞いていないようだった。
 なんと答えたらいいのかわからず、莉々子が口ごもる。

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