俺様社長に甘く奪われました

「……どうかしたの?」
「あ、その……」


 奏多が話していないことを自分から言っていいものか悩んでしまう。余計なことは慎んだほうがいいのではないかと思うと、その先を続けられない。


「奏多となにかあった?」
「いえっ、そういうわけでは……ないのですが……」
「そう。それじゃ呼ぶわね」


 百合はスマホをタッチすると、すぐに通話を始めた。


「奏多、今どこ? ……そう。それじゃ、すぐに部屋にいらっしゃいよ。素敵なお客様が見えてるから」


 嬉しそうに電話を切った百合が「奏多、帰っていたわ」と笑う。

(それじゃ、あと数分もしたらここに奏多が……。私がいることを知ったらどう思うだろう)

 素敵なお客様どころの話ではない。奏多にとってみれば、莉々子は招かれざる客だろう。
 いろんなことを考えて身体が強張る。密かに加速を始めた鼓動に気づき、自分で思う以上に緊張していることがわかった。

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