俺様社長に甘く奪われました
しばらくして出迎えた百合と一緒に現れた奏多が、莉々子を見て複雑な表情を浮かべる。
莉々子もまた、ぎこちなく目を逸らして頭を下げることしかできなかった。
「莉々子さんと下でばったり会ってね、おいしいケーキで釣っちゃったわ。ごめんね、奏多、横取りして」
「……いや」
「ほら、座ったら? 今、奏多の分の紅茶も淹れてくるわね」
百合がキッチンへ立った瞬間、ふたりの周りを重苦しい空気が取り囲む。鍵を返すなら今のうちだと、百合を横目に見ながら莉々子はそっと差し出した。
「返しそびれていてごめんなさい」
隣に座る奏多に向かい、百合に聞こえないように声をひそめる。
一瞬驚いたようにした奏多は、「ああ」と小さく唸るように返事をしてそれを受け取った。
そこから再び沈黙が訪れる。せめて百合が早く戻ることを祈るしかできない。
「あら、なぁに? しんみりしちゃって。ケンカでもしたの?」
舞い戻った百合が目を丸くしてふたりを見比べる。奏多の前にカップとケーキを置いて向かいのソファに座った。