俺様社長に甘く奪われました
嫌いになれれば、どれだけ楽だろう。振られて一週間以上が経つのに、想いは減るどころか募るいっぽう。その愛しさに溺れそうなほどに。
「力になってあげられなくてごめんなさいね」
「いえ……。ケーキも紅茶もごちそうさまでした」
莉々子は深く頭を下げて百合の部屋をあとにした。
マンションのエントランスにはすでに奏多の車が横づけされていて、莉々子に気づいた彼がわざわざ運転席から降りて助手席のドアを開けた。思わぬ優しさが、かえって辛い。
アパートまではおよそ二十分。車内には微妙な空気が立ち込め、沈黙のまま時間が過ぎていく。そんな中に身を置いていてもなお、奏多のそばにいられる時間が愛しく思えてしまう。しゃべれなくとも、このまま永遠にアパートに着かなければいいのにと思わずにはいられなかった。
それでも無情に時は過ぎ、莉々子のアパートの前で車が止まる。
「送ってくださり、ありがとうございました。お忙しいところすみません」