俺様社長に甘く奪われました

 せめて奏多が負担に思わないよう、明るい声でお礼を言う。自分は平気だと思ってもらいたかった。


「身体は大丈夫なのか?」
「あ、はい、平気です。ただ寝不足だっただけですから」


 余計なことを言ってしまったと思っても遅い。奏多のせいで寝不足になったと思われたかもしれないと焦る。


「あ、あのですね、借りてきたDVDを見始めたら止まらなくて。それで寝不足だったんです」


 莉々子は慌てて適当に繕った。


「あまり無茶はするな」
「……はい、ありがとうございます」


 降りたくなくなることを言わないでほしい。
 奏多に嫌われていたとしても、一緒にいたい気持ちでいっぱいだった。


「……あの、それじゃ」


 たぶんこれでもう最後。奏多の車に乗ることも、奏多とこうして話すことも、もう二度とないだろう。

 意を決してドアを開けたところで、「莉々子」と奏多が呼び止める。

 振り向いて見た奏多は、なにかを言いたそうに唇を開きかけた。

 もどかしさを感じるほどに時間がゆっくりと感じる。見つめ合う中、奏多の真意がはかれなくて息がつまるほどに苦しい。

 莉々子を引き留めるために呼び止めたのだったらよかったが、奏多は「いや、なんでもない」と彼女からサッと視線を外したのだった。


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