俺様社長に甘く奪われました

 とっくの昔に別れた自分に、どうしてそこまで優しくするのかわからない。あのときの別れの本当の理由を聞かされたあとでは、莉々子も強気に突っぱねることができなかった。


「そんなことより、どこに行くつもりなの?」
「ちょっとアイツのことが許せなくてね」
「アイツって……奏多さんのこと?」


 祥真は莉々子をチラッと横目で見て「ああ」とうなずいた。


「でもだからって、どうしてこんなことを?」


 奏多のことを許せなく思う気持ちはわかる。祥真と会ったアストロで、『莉々子を渡すわけにはいかない』と啖呵を切った奏多は、あっさり別れてしまったのだから。


「まぁいいから、莉々子はおとなしく俺についてきて」


 真顔でそう言った祥真は、それきり口をつぐんでしまった。

(いったいどういうつもりなんだろう……)

 祥真の真意が掴めないまま、莉々子はどうする手立てもなく彼に従うしかなかった。

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