俺様社長に甘く奪われました

 音のない静かな部屋。莉々子を置き去りにして、時間が流れていく。
 彼の入れてくれたコーヒーを飲んで徐々に気持ちが落ち着いたところで、ふと自分の置かれている状況に気づいた。


「あの、どうして……」


 なにを聞きたいのか悟った彼が、「さっきの店で隣に座っていたんだ」と答える。


「そう、だったんですね……」


 別れ話を彼に聞かれていたようだ。こっぴどく振られたところを見られていたとは恥ずかしい。莉々子は肩をすぼめて小さくなった。


「キミのことがなんとなく気がかりで、気づいたら店を出て追いかけていたよ」


 莉々子が泣いていたところも見たのだろう。見ず知らずの女を心配して、雨の中をわざわざ追いかけてくるなんてと複雑な心境だった。


「大丈夫か?」


 不意打ちで優しい言葉と目を向けられ、収まっていた悲しみが再び湧き上がる。

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