俺様社長に甘く奪われました
「まだそんな歳じゃありません」
「そうですか? 目の下にクマができてますよ」
「えっ、本当!?」
引き出しに入れていた小さな手鏡で莉々子が見てみると、松永の言うとおりだった。久々にひどい状態だ。
「志乃さん、ちょっと直してきてもいいですか?」
「うん、いいわよ」
メイクでどうにかなるのは不明だが、直さないよりはましだろう。
ロッカールームへ行こうと席を立ち、莉々子が総務部を出るためにドアを開けようとしたときだった。ドアノブを掴みかけた手が空を切ってドアが開き、彼女の前に背の高い人が立ち塞がる。
一瞬のうちに、嫌な予感が駆け抜ける。ついこの間、強引さの中に甘さを秘めた男の放つオーラをそばで感じたばかり。
恐る恐る目線を上げていった莉々子は、みごとに当たった予感にヒヤリとした。望月が現れたのだ。
「お、おはようございます……」
莉々子がボソボソと挨拶をすると、その背後から「望月社長! おはようございます!」と部署のメンバーが次々に声をあげる。