俺様社長に甘く奪われました
バーにいたときに名前も聞いていたのだろう。彼の甘美な声が鼓膜を震わせ、再び降りてきた彼の唇に、莉々子は自分から口づけた。
莉々子にとって、それは現実離れしている夜だった。自分ではない、ほかの人の話を聞いているような感覚だった。
ところが、翌朝目覚めた莉々子が見たのは紛れもない現実。隣には激しく求め合った男が寝息を立てていた。
(私、なにしてるんだろう。しかも彼となんて……)
成り行きで一夜限りの関係を持つことなんて、今までは考えられないことだった。
彼を起こさないようにそっとベッドを抜け出し、まだしっとりと濡れている洋服に着替える。音を立てないように身支度を整え、急いで部屋を飛び出したのだった。